ポーランドで与党が成立を目指している法律の波紋
8月10日放送 「NHKマイあさラジオ」
キャスター:ポーランドでは今、与党の保守政党が最高裁判所の人事の掌握を可能にする法律の成立を目指していて、国内外で反発を呼んでいます。
ベルリン支局の野田記者に聞きます。
与党が目指しています最高裁判所の人事に関する法案というのは、どんなものなんでしょうか。
野田:最高裁判所の判事を一旦全員解雇し、その上で政権側が後任を自由に選べるようにするものです。
ポーランド政界で最も力があると言われる与党法と正義のカチンスキ党首が進める司法改革の柱となっています。
政府与党は判決までに時間がかかりすぎるなど国民の不満の多い司法制度を改革するためだと説明しています。
これに対し野党側は、この法律ができれば政府による司法の介入につながり、民主主義の根幹である司法の独立が脅かされると懸念しています。
キャスター:ポーランドでは大規模なデモが続いたそうですね。
野田:特に法案が議会下院を通過した直後の先月20日には各地で野党支持者によるデモがあり、このうち首都ワルシャワでは、主催者の発表で5万人が集まりました。
私も現地で取材をしたんですけど、ポーランドやEUの旗を手に大勢の若者が集まり、多くの人が現政権はポーランドの民主主義の歩みを逆行させていると危機感を抱いていました。
また、EUも、EUにおけるポーランドの議決権の停止という思う制裁を課すことも辞さないと異例の厳しい警告を行いました。
キャスター:この法律が成立する見通しはあるんでしょうか。
野田:最高裁判所の判事の人事権に関する法律は大統領が署名して成立するばかりだったのですが、大統領は署名しませんでした。
大統領は与党の出身だったため、この判断はポーランド国内では驚きを持って受け止められました。
ただ大統領は新たな法案を提案するといっていますし、与党は抗議や海外からの圧力には屈しないと述べて、あくまで政策を推し進める決意を表明しています。
今後の見通しは読みにくいのですが、少なくとも現時点で野党側の勝利と結論づけるのは時期尚早で、 夏休み後の動きに注目しています。
キャスター:今、旧東欧諸国では右派の台頭が各国で起きていますけど、こうした事態はEUの結束を揺るがす新たな問題になるんでしょうか。
野田:ポーランド政府は今後も経済成長を続けるには、EUの力が必要だと考えています。
実際EUからは加盟国の中で最大の補助金を受けており、道路や港湾などのインフラ整備を進めてきたことが経済成長の原動力となってきました。
しかしポーランドとEUとの対立は司法改革だけでなく、難民の受け入れをめぐっても起きています。
EUは一昨年、中東などからの難民を分担して受け入れることを決めましたが、ポーランドはハンガリーやチェコと共に受け入れを拒み続けています。
イギリスがEUからの離脱を決めた後、EUはEUに懐疑的な勢力の躍進が懸念された今年前半のオランダ議会選挙、そしてフランス大統領選挙を乗り切りました。
ドイツのメルケル首相とフランスのマクロン大統領を中心に統合の強化に向けて取り組んでいこうとしているところです。
そこに今回、EUの理念に逆行する動くが引き出したかたちで、新たな亀裂をどう埋めて行くのか、EUの指導力が問われています。