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問われる受動喫煙対策

NHKラジオ「先読み!夕方ニュース」 5月31日放送

解説:土屋敏之解説委員

 

アナウンサー:他人の煙草の煙を吸い込む受動喫煙の被害を防ぐため、政府は今国会に法改正を図る方針です。

しかし、厚生労働省自民党の間に意見の隔たりがあってまとまらず、見通しは不透明です。

 

そもそもこの意見の隔たり、どんなところにあるんでしょうか。

 

土屋解説委員:おもに飲食店など不特定多数の人が利用する施設を原則として屋内禁煙とするか、それとも分煙や喫煙を認めるとするかで、厚生労働省自民党の考え方が大きく異なっているんです。

 

この議論の発端は東京オリンピックパラリンピックに向けて去年の10月に厚生労働省がまとめたたたき台というのがあったんです。

 

これは、不特定多数が利用する施設は屋内禁煙を基本とする、ただし飲食店や劇場などのサービス業では喫煙室・喫煙部屋を設けることは可能とする内容でした。

 

ところが、喫煙客が減ることを心配した飲食店業界やたばこ産業が強く反発して、自民党内からも多くの反対の声が上がったんです。

 

そこで、厚生労働省は原則は屋内禁煙だけれども小規模なバーやスナックは例外にする、という案を打ち出したんですけど、そもそもこの原則自体に反対する自民党のたばこ議員連盟が、飲食店は禁煙か分煙か喫煙かを表示すればいい、とするまったく方向性が異なる案を公表したんです。

 

その後も調整は続いたんですけど、溝は埋まらなくて、5月24日には塩崎厚生労働大臣自民党の茂木政調会長の会談があったんですが、ここでも折り合いがつかず、国会会期末が迫る中で未だに法案の提出の見通しも立っていないんです。

 

アナウンサー:世界でも問題になってますけど、日本ではいまだに屋内禁煙か分煙かという入り口でもめてるんですね。

 

土屋解説委員:日本では、分煙じゃいけないのかと思う人が良くいると思うんですけど、日本の現状からすると原則屋内禁煙という厚生労働省案自体が厳しすぎるかもしれませんけど、海外経験のある方は詳しいかもしれませんが国際的には受動喫煙対策のスタンダードは分煙ではなく屋内禁煙です。

 

たとえば、近年のオリンピック開催国で言うと、2012年のロンドンも、2016年のブラジルも、国の法律でレストランやバーなども含む公共の建物内全て嫌煙にしていました。

 

これは、喫煙室の設置を認めない全面的な屋内禁煙だったわけですけど、日本もこうした措置を求められている中で、厚生労働省案でも喫煙室の設置や例外を認めたりということでイギリスなどに比べると相当ゆるいので、これでも国際的にはギリギリの線ともみられているんです。

 

よくオリンピックが来るからやらなきゃいけないと思う方も多いと思うんですが、それ以前に2005年に発行したたばこ規制枠組み条約、これは日本も入っているんですが、その国際ルールで受動喫煙対策を厳しくすることが求められているんです。

 

世界ではすでに49か国が法律で飲食店など公共の屋内すべて禁煙としていますが、これに対して日本の今の受動喫煙対策は、WHOから世界で最低レベルと酷評されている現状です。

 

受動喫煙による死亡者は世界で年間89万人、日本でも毎年1万5千人と交通に数倍するとも推計されていますので、やはり方向性としては屋内禁煙に向かわざるを得ないように思います。

 

アナウンサー:私もヘビースモーカーだったんですけど、海外でたばこを吸うところが限られてしまって、それでたばこの本数が減って、日本に帰ってきてたばこをやめたんですけど、喫煙というものがドイツやフランスなどヨーロッパでは文化であるとか、個人の権利だという主張もあったんですけど、最終的にはたばこはダメだと、禁煙という方向に向かったわけですね。

 

これに比べて日本は、まだまだ入口の議論にある。

これからどうなっていくんでしょうか。

 

土屋解説委員:なかなか読めないところなんですが、参考までに5月にNHKが行った電話世論調査では、この受動喫煙対策、厚生労働省が示している飲食店などの屋内を原則禁煙にすべしと指示する方が44%、一方自民党が検討しているような禁煙の例外を広げる案を指示する方が24%と、ほぼ2倍くらい屋内原則禁煙を支持する方の方が多いという状況でした。

 

考えてみると、今や成人の8割がたばこを吸いませんから、より厳しい受動喫煙防止策を多くの人が望んでいると言えそうです。

 

こうしたなかで、7月に東京都議会選挙が行われるわけですけど、自民党の都連も含めて多くの政党が原則屋内禁煙などの受動喫煙防止の条例を作るという公約を相次いで出しているんです。

 

民意がだんだん明らかになってくれば、政治もそれを受け止めるということだということなのか、まずはオリンピックの開催都市である東京の動きが注目されています。

 

一方で、東京に任せておけばいいかというと、やはり国も年間1万5千人という受動喫煙死をなくしていくために、大きな責任があると思います。