宮台真司が見た前川喜平・前文科事務次官とは?(その②)
TBSラジオ「荒川強啓デイ・キャッチ」6月23日放送
コメンテーター:宮台真司
(その①)のつづき
荒川:学校法人加計学園の獣医学部新設をめぐり、総理官邸や内閣府が文部科学省に対して圧力をかけたのではないかという問題で、前川・前文部科学省事務次官が先程から会見を開いております。
では、改めてここまでの経緯をお伝えします。
問題が大きく報じられたのは、先月17日です。
内閣府から文部科学省に、「総理の意向」などと伝えた文書が残っていたという記事です。
菅官房長官は、この日の会見でこの文書について質問されると、「そのような事実はない。まったく怪文書みたいな文書。」と切り捨てました。
しかし、火消しには至らず、疑惑は深まるばかり。
先月29日、「デイ・キャッチ」に前川氏が出演した時には、「文書はある」と以下のように明言しておりました。
前川:これは、私が現職の時に確実に手に取って見たことがある文書ですから、存在してるんですよね。
私は、これは実際に内閣府のしかるべき地位の方が語ったことであるということ自体は100%真実だと思っています。
先程から続いている会見の続報をお伝えします。
月曜日の総理会見で、「指摘があれば真摯に説明する。ひとつひとつ努力する」と発言した。
総理自ら説明責任を果たしていただきたい。
この問題を岩盤規制の話などとして改革派と抵抗勢力の構図で見ようとする人もいるが、この問題の本質を見誤る考え方である。
やはり加計学園ありきだったのではないか。
過程において根拠や手続きが極めて不透明。
特区の諮問会議が適切なものだったのか問題があると認識している。
特定の主体にだけチャンスを与えるような仕組みなのではないか。
充分な検討がされていないのではないか。
加計学園の獣医学部が、特区条件である国際競争力に資するものなのか、検討がひつようだ。
ここまで、このような発言をされています。
宮台:まったくもっともだね。
むしろ、政権の内部でこういう異論をいう人間がおらず、事実上イエスマンの一連托生みたいになってるというね、どうにもならない状況が今の現実なんだね。
モンテスキュー以来、近代の政治は相互のけん制が健全さにとって大事なんだと言われている。
だから三権分立がどの国でも行われてきているわけだよね。
その意味でいうと、司法の独立性の危うさとか国会の行政従属を含めて、ある種の権力のけん制が働かなくなっているということをね、教養ある行政官僚の心ある人間たちが思うのは当然のことでね、そういうときにある種のけん制を行う、合法的な手続きの中で行うということは非常に重要なことだと心得ています。
荒川:ここで前川さんの音声をお聞きください。
前川:文部科学省が100%の説明責任を果たしているかと言えば、それはまだまだ100%とは言えないかもしれませんが、しかし一定の説明責任は果たしつつあると思っております。
しかし一方、記載されている事実は、多くの場合、内閣府との関係あるいは総理官邸との関係をめぐるものでありまして、これらの事実関係につきましては、様々な理由をつけて、官邸あるいは内閣府は、その事実関係を認めようとしていないという状況にあるわけであります。
そういった姿勢は、私から見れば、やはり不誠実であると言わざるを得ないと思っておりまして、真相の解明から逃げようとしているというふうに評価せざるを得ないと思っております。
特に、文部科学省の文書の中に出てまいります「官邸の最高レベルが言っている」という文言とかですね、あるいは「総理のご意向」という文言、こういった文言を含んだ文書がございますけども、この内容につきましては、内閣府においてはですね、言わば自分の口から発した言葉を自ら否定していると、そういう状況でございますから、これはちょっとありえない話ではないかと思っておりますし、それから規制改革全般をスピード感を持って進めろという総理のご意志を反映したものだと、こういう説明をしようとするのも、これはかなり無理がある説明であるというふうに思いまして、そういったご指示があったとして、それをこの文書に書いてあるような記載事項のように取り違えるはずはない、というふうに思っております。
荒川:つまり総理はかねてからスピードを持って遂行してくれという、その中の一環だったというのは違う、と前川さんはおっしゃっているんですね。
宮台:何のスピードかが問題ですよね。
公正な手続きをスピードを持って進めるのと、お仲間に権益を配分するのをスピードを持って進めるのとでは違うんじゃないですか。
荒川:だから、国家戦略特区の方はスピードを持って、いろいろ出て来るのでやってくれと。
その中にたまたま加計学園が入ってたということのような口ぶりだったのが、前川さんはそれは違うと。
宮台:嘘に決まってます。
そうだったら、内部文書否定するはずないでしょ。
荒川:やっぱり加計学園ありきということですか。
宮台:もちろん。
それが、内部文書から分かるのがイヤだったということですね。
印象操作をしたかったんです。
荒川:そうなんでしょうね。
しかし、印象操作の中にも、先程宮台さん触れておられましたが、読売新聞が出会い系バーに前川さんが通っていたと、この記事の意味をどう見ます。
宮台:官邸特に官房長官が、興信所的に有力な与党議員や霞が関官僚の情報を獲得するのは当然のことです。
ずっとやってきています。
僕はよく知っています。
これは、公安活動の理屈と実はよく似ていて、自由を許容することは大事だけど、自由を許容する制度の中で自由が破壊される危険が生じるのを何として食い止めるか、これが大事だということなんです。
理屈としては同じようなことで、政治の正当性と安定性を確保するための公安類似的な活動は肯定されなければならない、というふうに僕はあくまで思います。
しかし、最低条件は、これなんですね。
それを、マスコミに横流しするなど、権力の行使のツールに利用してはいけないということです。
もしそんなことがなされたら、民主制は台無し、異論を言う人たちは異論を言えなくなる。
マスコミ人だって、学者だって。
だからそういうことはやっちゃいけないんだけど、これはマスコミ側から言えば、そういう公安情報的なあるいは官房長官・官邸側からの興信所的なある種の内定によって得た情報を横に流すというね、横流ししてもらった情報を表に出す、ということで民主主義を破壊してはいけない、そういう最低限の責務を持つべきだったんだけど。
読売新聞は、それが出来なかったんです。
荒川:官僚という方々は、自分の気持ちを挟むなんてことはしないのが官僚でしょ。
宮台:それは、前川さんがずっと言っている「面従腹背」ということだよね。
自分の価値観、本当に思っていることと日々の仕事は多くの場合あるいはほとんどの場合異なるんだというふうに僕らの番組でもおっしゃっていた。
しかしだからこそ、魂を売ってはいけないんだということですよ。
何が適切で、何が適切でないか、ずっと見極めていこうということです。