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事件から1年 やまゆり園再建は ニュース解説

7月26日放送「先読み!夕方ニュース」(NHKラジオ)

解説:堀家解説委員

 

キャスター:相模原市知的障害者が入所する施設で、46人が殺傷された事件から1年、事件後閉鎖された施設、津久井やまゆり園をどう建て替えるか、議論が続いています。

1年経ったわけですけど、今再建はどこまで進んでいるんでしょうか。

 

堀家:施設を管理する神奈川県は、今部会を設けて建て替えについて検討を進めています。

今月示された骨子案では、定員の160人のやまゆり園を複数の地域に分散させて、少人数で暮らす施設を作るとしています。

部屋は全て個室です。

そして、施設の近くの地域には、家庭的な雰囲気で暮らすグループホームを設け、希望する人が地域での生活に移行できるよう支援を進めていくとしています。

 

キャスター:施設を事件前のように再建するのではなく、分散小規模化するというのは何故なんでしょうか。

 

堀家:その背景には、長年続いて来た国の政策への反省があります。

障害書の福祉政策は、戦後障害者を保護するために始まって、大規模な入所施設を中心に行われて来ました。

やまゆり園もそのひとつです。

国も補助金を出してコロニーと呼ばれる大規模施設の建設を推し進めて来ました。

しかし、その多くは用地取得の難しさもあって、山間の地域にあり、障害者を地域から切り離すいわば隔離政策と批判が高まりました。

このため、国は政策を転換して、全国で施設から地域に生活の場を移す、地域移行というのを進めています。

その受け皿は、グループホームです。

食事の時間ひとつ取っても自由にならず、制約が多い施設での生活に比べてグループホームでは、個室を持ち、自由に外出できるなど、一人一人のニーズに合わせた支援が行われています。

 

キャスター:複数の地域に分かれて少人数で暮らす施設を作るという骨子案なんですけど、家族の方々はどう受け止めているんでしょうか。

 

堀家:実は、入所者の家族からは反対の声が上がっています。

やまゆり園の平均の入所期間は15年余りで半世紀以上施設で暮らした人もいます。

8割の人は、障害の程度が最も重い区分6です。

長年施設での暮らしに慣れた入所者が、異なった環境で生活を始めるということに家族は不安を感じていると思います。

そして、施設に入所した当時、グループホームなどの選択肢がなかった家族にとって、施設はようやくたどり着いた場所だともいえます。

また、やまゆり園で開かれる祭りに地域の人が参加するなど、地域との交流も盛んで、事件がなければずっと続いていた平穏な暮らしを取り戻したいだけなのに、施設の将来像と一緒に議論されるのは違和感があると話す人もいます。

 

キャスター:家族の方々が反対するのも十分理解できるんですけど、ではどうやって施設の再建を進めていくべきだと考えますか。

 

堀家:まず丁寧な説明が必要だと思います。

そして言うまでもなく、障害者本人の意思を尊重することが最も大切です。

神奈川県は、普段接している施設の職員や複数の専門職でチームを作って、新たな生活の場を決める際の意思決定を支援しようとしています。

たとえ言葉でのコミュニケーションが難しい場合でも、表情や日常生活の様子から、障害者本人がどのような生活を望むのか推定します。

ここで重要なポイントは、小規模な施設やグループホームの暮らしを実際に体験してもらうことだと思います。

選択肢があっても経験がないと選ぶのは難しいからです。

また、本人だけでなく場合によっては家族にも体験してもらうことが、納得した上での新たな生活の場の選択につながるのではないでしょうか。

そして、1回意思を決めたとしても、時間の経過によってそれは変わることがありますので、継続的に確認する必要もあると思います。

こうした障害者本人の意思の決定を支援する試みは、全国でも初めてと見られます。

今の入所者だけでなく、将来の利用者にも安心してもらえる施設になるのか、やまゆり園の再建の行方に注目したいと思います。