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積水ハウスが63億円の詐欺被害。地面師の犯行か?

8月3日放送  「荒川強啓デイ・キャッチ!」(TBSラジオ)

 

東京都内の土地取引をめぐり、大手住宅メーカー積水ハウスが63億円を支払ったにもかかわらず、土地を取得できていないことがわかりました。

積水ハウスによると、分譲マンションの建設用地として東京品川区の土地などを所有者を名乗る女性から購入する手続きを結びましたが、女性側から提供されたパスポートなどは偽造されたものだとわかったということです。

警察では、地面師による詐欺被害の可能性が高いと見て、捜査を開始しています。

 

荒川強啓:このニュース、サンキュータツオさんが調べてくれました。

タツオさん、地面師って何ですか。

 

山田五郎:バブルの頃よく聞いたよね。

 

サンキュータツオ:ご存知でしょうか。

結構歴史の古い詐欺みたいなんですが、そのことについて調べました。

他人の土地を自分の物のように偽って、第三者に売り渡す詐欺師のことですね。

単体ではなくて、組織で詐欺を働いているようなんです。

「ようなんです」というのは、どこからどこまでが加害者で、どこからが被害者かすらわからなくなってしまうという非常に巧妙な詐欺だからなんです。

どんな人が関わっているかというと、まず売れそうな土地をリサーチして探してくる人。

次に、書類を偽造する人。

さらに、売主になりすます人。

さらに、弁護士、司法書士になりすます人。

また、騙す客を探してくる人。

これらを分担して行うようなんです。

正しい取引でも、通常の土地の取引というのは、不動産業者が斡旋するので、慣例として土地を買う人と売る人は契約の場で初めて会うというのがほとんどなので、ここを逆手に取った詐欺とも言えるみたいなんです。

今回、積水ハウスが被害を受けたということなんですが、詳しく見てみると、

舞台となったのは五反田駅近くにある何年も営業していない旅館。

旅館が建つおよそ600坪の土地は高齢の女性が保有していました。

この土地は都心でまとまった土地であることから、ずっと様々な企業が狙っていたんですけど、この女性は一切売りませんときっぱり断って、今まで売ることはありませんでした。

ところが今年4月、地主から持ちかけられて、とある企業を経由して積水ハウスに売られることが決まったと。

ところが、6月になって登記が別の個人男性に移っていたんですよね。

積水ハウスに売られるはずだった土地が別名義になったと。

役所は、積水ハウスの契約に不備があると判断したんですが、積水ハウス側は購入代金70億円のうち9割に当たる63億円を既に支払ってしまった後で、所有者とは連絡が取れない状態になっていると。

ここで売却を持ちかけてきた所有者を名乗る女が偽者だったということがわかったと。

 

荒川強啓:その高齢の女性ではなくて。

 

サンキュータツオ:になりすました女の人がこの土地を売ると言いだしたんだというところからストーリーが始まってるんです。

なぜ騙されたかというと、その女性が偽造パスポート、そして偽造印鑑登録証などを駆使して、積水ハウスを騙していたと。

ただその高齢の女性が、それだけの物を偽造するかと言ったら、普通は疑いませんよね。

というところで、組織的な犯罪だということがわかるんですけど、もう所有者を名乗る女は過去にも同様の事件に関与したことがあるとの報道もあり、地面師グリープが関与したということらしいです。

これは積水ハウスだけではなくて、有名ホテルチェーンのアパホテルも被害を受けているんですね。

ここTBSのある赤坂にほど近い土地で土地の権利書はもちろん固定資産評価証明書、印鑑証明書、住基台帳カードまで偽装して、転売した先の所有者になりすまして、アパホテルに土地を12億円で売りつけた人もいる。

売買の場には弁護士や司法書士も同席、地主になりすました80代の男も登場し、売買が成立。

これはもうお芝居みたいなものなんです。

全員キャスティングされてる状態で「あとは契約してください」という状態になるので。

6日後に法務局が書類の偽造に気付いて事件が発覚、その時既になりすました男たちは行方知れず。

その後、今年になって首謀者とされる男 が逮捕されましたけど、アパホテルの被害額の12億円はほぼ帰ってきません。

積水ハウスにしても、アパホテルにしても、土地取引のプロです。

そのプロがなぜ騙されるのか。

というのは、プロでも見抜けないほど巧妙ということなんですね。

その土地の権利書や売主というのは、偽造グループが用意した多重債務者あるいはお金に困った人に数百万円で「なりすましてくれ」と。

もうキャスティング費用ですよね。

出演料みたいな感じで払って、あとはもう海外に行ってしまうとか。

なので、パスポートとか免許証も偽造できるので、相手を信用させるために自宅を用意して、植木屋さんや近所の人までサクラとして用意する。

現場で近所の人が「こんにちは」なんて声かけてたら、地主の人だと思うじゃないですか。

だから、裏の取りようがない。

変に疑ってかかったら、「そんなに疑り深い人とは取り引きしません」と言われたらおしまいなので、なかなか見抜けないです。

 

山田五郎:よくあるのは、間に仲間だかなんだかわからない不動産業者が入る。

それで、騙されてその人が買っちゃったということに、でも買った時点ではその書類はなんの不備もない。

それをさらに転売すると。

 

荒川強啓:それもグルなんでしょ。

 

山田五郎:いや、わかんないじゃないですか。

 

サンキュータツオ:不動産業者もグルの場合と、グルじゃない場合があるそうです。

 

山田五郎:不動産業者は、「私も騙されたんだ」って言えばいいんですよ。

 

 荒川強啓:そういう場合もあるの。

 

サンキュータツオ:弁護士も司法書士もみんな、「私も騙された」って言ってしまうと、じゃあ誰が騙したのかが一切わからない。

 

山田五郎:一番最初に騙したやつもとっくに消えてるんですよ、その頃には。

 

サンキュータツオ:グループがどこまでかわからないけど、とりあえず全員が騙しに加担している構造ではあるんです。

お金を払った後は、売主になりすました人は見つからない。

今言ったように、弁護士や司法書士や不動産業者も騙されたと言ったら、もうそのまま。

防ぎようがない。

 

荒川強啓:誰が儲かってるの?

 

サンキュータツオ:プロデュースした人ですね。

他にもいろんなケースがあるんです。

お金に困ってる土地の権利者が、自分の土地を売らずに詐欺に加担して小金を設けるパターンとか、権利者の親族がこのグループに加担するとか、こうなったら絶対に見抜けないというパターンばっかり。

もともと地面師というのは、70年ほど前に終戦後のドサクサに跋扈した詐欺師なんですね。

役場が戦災にあって機能していない時期に、勝手に土地に縄を張って土地の所有者になりすました。

そして関係書書類をでっち上げて、転売してぼろ儲けをする。

 

荒川強啓:それだけの騙しの歴史があるのに、未だに整備できてないの、法律は。

 

サンキュータツオ:違うんです。

背景が違うんです。

今は終戦後ではないんですけど、地主が高齢化して、孤立しているので、別の場所で一人で暮らしている。

あるいは亡くなった後、相続とかに時間がかかって、何年も土地が放置されている。

なので、都内にあるぼろ家や空き地みたいなところがありますよね。

ああいうところをわざわざ狙って詐欺を働くんです。

2020年の東京オリンピックを前に、東京は4年連続で地価が上がり続けている。

日本銀行によるゼロ金利政策でマンション投資ブームが続いた上に、今年1月マイナス金利政策もあって不動産ブームが来ている。

ということで、買いたいと思う人がすごく多いところに詐欺を働く組織が暗躍していると。

どうやったら、これを防げるのかと。

書類が偽装だと発覚していないまだ顕在化していない土地もあるので、司法書士連合会の理事によると、登記は日常的に見るものではないので、持ち主が被害を未然に防ぐのは難しいと。

防ぎようがないとプロが言ってるんですよね。

 

山田五郎:知らないうちに変えられちゃってるんだもん。

 

サンキュータツオ:もう見初められちゃったら、それで終わりっていうお手上げ状態の詐欺があるので、みなさん気をつけてということしか言えないんです。

 

荒川強啓:気をつけようがないじゃない。

 

サンキュータツオ:そうなんですよ。

これはそもそもあまり大きく報道されないですし、被害者も言ったところでお金が帰ってこないので言わないんですよ。

ということで、全然表に出てこないんですけど、大きな被害がたくさん生まれているというニュースなんです。

 

山田五郎:土地を持たないことですね。