日本とEUのEPA交渉について
NHKラジオ「NHKマイあさラジオ」6月27日放送
キャスター:日本とEU(ヨーロッパ連合)のEPA(経済連携協定)の交渉は、7月の大枠合意に向けて、緊迫した交渉が続いています。
大瀬解説委員に聞きます。
現在の交渉の状況はどうなっていますか。
大瀬解説委員:交渉は現在主席交渉官による非公式の会合が断続的に東京で行われていまして、関税や投資のルールなど27の分野での大枠合意を目指した議論が進んでいます。
日本とEUのEPAは、4年前にスタートしたんですが、交渉は停滞していました。
ところが、アメリカのTPP離脱やイギリスのEU離脱などで、急に息を吹き返しまして、台頭する保護主義に対抗するとして、安倍総理自らが、7月上旬の大枠合意を目指し、交渉を急がせているんです。
ただ、こうした前のめりの姿勢に国内から反発も出ています。
キャスター:なぜでしょうか。
大瀬解説委員:交渉に関する情報が少ないという不満が強いんです。
今回の交渉では、EUが自動車や電機製品にかけている関税の早期撤廃とか、日本がかけているチーズや豚肉など農産物の関税撤廃がひとつの焦点になっているんです。
ところが、交渉がどこまで進んでいるのか、どんなメリットがあるのか、という情報がほとんど外に出てこないんです。
特に農業分野では、EUはチーズについて、TPP以上のレベルを要求しているというふうにされていまして、日本の農家の中には、交渉をまとめるために、政府が大幅な譲歩をするのではないかという警戒感が強いんです。
キャスター:厳しい交渉なので、政府は情報を出さないということなんでしょうか。
大瀬解説委員:もちろん、具体的な中身は相手もありますから、通常公開はできないんですね。
秘密保持条項があったTPPでさえ、政府は交渉途中に関係者向けの説明会を開いていたんですね。
ところが、今回はこれもないと。
それに、そもそもカマンベールなど一部のチーズについては、農業の6次産業化などで、日本の農家が力を入れてきた分野だったんですね。
競争力の強いEU産のチーズが入ってきたら、せっかく育ててきた芽を摘んでしまうことになりかねない。
農家の不安はかなり高まっています。
キャスター:そうした中で安倍政権が合意を急ぐ理由は何ですか。
大瀬解説委員:安倍政権としては、成長戦略の柱としていました、TPPがアメリカが離脱したことで漂流しているわけですね。
その穴を埋めるためにも、EUとのEPAをなんとかまとめたい。
これが本音だと思います。
ただ、国内の不安は強いものがあります。
自民党は、生産者が農業経営を続けられるように、関税を確保することが必要だと、交渉を担当する岸田外務大臣に申し入れをしましたし、EU訪問を予定していました山本農林水産大臣もこうした声に配慮して、訪問を取りやめているんですね。
キャスター:今後の交渉の先行きはどうなるんでしょうか。
大瀬解説委員:日本とEUとのEPA、合意すれば人口6億人、世界のGDPの30%近くを占める巨大な自由貿易圏ができます。
これは、TPPに匹敵する規模なんです。
しかもEUは、世界有数の農産物輸出国ですから、農家の不安は当然といえば当然なんです。
政府が目標とする7月上旬まであと2週間です。
政府としては、国内の関係者への丁寧な説明とともにどうEUと交渉するのか、残り少ない時間の中で内外両面をにらんだ交渉が求められているというふうに思います。