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外来アリ 広がる脅威

7月18日放送「先読み!夕方ニュース」(NHKラジオ)

 

キャスター:強い毒を持つ南米原産の外来アリヒアリが各地で相次いで発見されています。

兵庫県尼崎市で国内で初めてヒアリが確認されたと環境省が発表してから1ヶ月、その後大阪、愛知、東京などの都府県でも確認され、すでに繁殖していたとみられるケースもあります。

土屋解説委員に聞きます。

実際、ヒアリはどのくらい危険なんですか。

 

土屋:ヒアリは赤茶色をした体長2.5ミリから6ミリぐらいと小さめのアリなんですけど、脅威とされている大きな理由はお尻にある毒ばりで人や動物を刺すことです。

刺されると火傷のような激痛がする上に、低い確率なんですが激しいアレルギー反応いわゆるアナフィラキシーを起こして命に関わる危険もあるんです。

呼吸困難や動悸などアナフィラキシーが疑われるような症状が出た場合にすぐに医療機関にかかって適切な治療を受ければ亡くなることはまずないという指摘もされています。

人を刺すということ以外にもヒアリの脅威としては、アメリカでは家畜が刺されることによる畜産業への被害とかあるいはヒアリが電気設備に入り込んで配線類をかじることがあるそうなんですが、それによる産業的な損害も報告されています。

加えて、在来のアリを駆逐して生態系を大きく変えてしまう恐れもあるということで、2005年に作られたいわゆる外来生物法でも生態系などに被害を及ぼす恐れのある特定外来生物に指定されていまして、輸入や野外に放つことなどが禁じららていますし、専門家の中には最悪の外来生物だと呼ぶ人もいるほどなんです。

 

キャスター:なぜ今相次いでヒアリが見つかっているんでしょうか。

 

土屋:一言で言うと、これは初めて詳しく調べたからに過ぎないんです。

今回最初に見つかったヒアリは中国から神戸港に来た貨物船のコンテナに入っていたものなんですけど、その後愛知や東京で見つかったヒアリはこれとは別の船で運ばれたと見られていますし、大阪や横浜で見つかったものはそもそもいつどこから入って来たかもはっきりしていないんです。

ですから、ヒアリは1回入ったものが広がって今ニュースになっているわけではなくて、すでに何度も繰り返し日本に入っていると考えざるを得ませんし、今回は全国の主な港湾で調査を行ったからそうした港での発見が相次いで報告されているということなんです。

特に気になっているのは、大阪では女王アリが見つかっていますし、横浜港では幼虫なども見つかっている点なんです。

と言うのも、ヒアリは夏場、羽のあるメスつまり新たな女王候補が生まれて飛び立ってちょうど繁殖する時期だと言われています。

繁殖能力がない働きアリだけではなくて、女王アリや幼虫がすでに屋外で見つかっていることは、もう日本の生態系の中でヒアリが繁殖して広がり始めている可能性を示しているわけです。

 

キャスター:海外ではどういう状況なんですか。

 

土屋:もともと南米原産のヒアリなんですが、アメリカには20世紀前半に入っていたんですが、太平洋を超えてオーストラリアや中国などに一気に広がったのは2000年代に入ってからのことなんです。

ですので、今回こうした中国などからさらに日本に入って来たと見られているわけですけど、グローバル化が進んで人やモノの移動が盛んになるに連れてヒアリが持ち込まれるケースも急増していると見られています。

 

キャスター:そのヒアリが日本に定着したり繁殖するのを防ぐにはどうしたらいいんでしょう。

 

土屋:ひとつの参考になりそうなのがニュージーランドの対策なんです。

日本と同じ島国のニュージーランドは2000年以降に3度ヒアリの侵入が確認されましたが、日本の農林水産省にあたる省庁によると、根絶に成功して現在はヒアリは存在しないとしています。

対策のカギは何かと質問しましたら、とにかくしっかりした監視の仕組みを作って見つけ次第根絶することに尽きると言うんです。

当たり前かもしれないんですが、ニュージーランドではこれを外来アリ監視プログラムという国のプログラムを作りまして、全国の港や空港などに常にエサ付きの罠を設置して、新たな侵入を食い止めているんです。

それでもやはり突破されて入ってしまうこともあるわけですが、その際は1993年にバイオセキュリティ法という法律を作っていて、これに基づいて早期発見早期駆除というのを行っているそうです。

具体的なケースを聞いたところ、2006年にニュージーランドの北部の木工製品の工場敷地内にすでに入ってから2年ぐらい経っていると見られる大きな蟻塚と3万匹ものヒアリが見つかったケースがあったんですが、この時羽アリが飛んで行く可能性が見られた半径2キロメートル以内を直ちに法律に基づいて管理エリアに指定しまして、その範囲では物品の移動を制限しました。

このエリア内では地面に24時間以上置かれてヒアリが入る可能性のあるすべてのものは許可なく動かすことを禁じて、その間に徹底的な調査と駆除を行ったそうです。

その後もこの2キロ圏内を何度も調査してそれでもヒアリが見つからなくなったので、3年後にようやく根絶宣言を出したと。

この対策におよそ7億円の費用がかかっているんですが、やはり一度蟻塚ができるぐらい繁殖を許してしまうと、根絶するにはこれくらい大変だということになります。

 

キャスター:日本でも根絶したいところなんですけど、同じ対策を取るのはちょっと難しそうですね。

 

土屋:半径2キロの範囲で移動を全て止めるというのは、大量に人や貨物が出入りしている東京や大阪でできるかというと、なかなか大変かもしれません。

そもそも、ニュージーランドでは法律によってこういうことができる権限を政府が持っているんですけど、日本の外来生物法というのは、確認されたヒアリは動かしてはダメだということになってるんですけど、ヒアリがいるかもしれないという理由で周辺の物品の移動を止めることはできませんので、現在の対策というのは事業者などに調査への協力をお願いするというかたちで進められているのが現状です。

いずれにしましても、国内で繁殖を許してから駆除をするより、水際で侵入を防ぐ、見つかったらすぐに広がる前に叩く、というのが重要なのは同じだと思います。

 

キャスター:今の所日本の対策はどうなってるんですか。

 

土屋:全国7つの主要な港湾でヒアリの調査や駆除が行われて来て、今月に入ってからなんですが、環境省の他に国土交通省財務省など関係省庁の連絡会議が設けられました。

そして、中国などとコンテナの定期航路を持つ全国の68の港湾に今後ニュージーランドのように罠を設置したり、リスクが高いところは殺虫餌を置いて直接駆除するという方針が打ち出されました。

これは一時的な対策ではなくて定常的な監視システムを一刻も早く作る必要があると思います。

それともうひとつ、今回発見が相次いだ発端は、尼崎で通関業者が法律上義務はないんだけれどたまたま環境省に見慣れないアリが出て来たと連絡してくれて、そこから調査が始まったんですね。

そう考えると、港湾の管理者とか輸入業者などにもっと周知を徹底して、実効性のある調査とか通報の制度を作る必要もあるんじゃないかと思います。

一般の市民・国民への啓発も必要だと思います。

第一に刺されたら健康被害を受けるのを避けるためというのもありますし、同時に目撃情報が早期駆除につながるからなんです。

ニュージーランドでは、一般のアリとヒアリの簡単な見分け方の資料をホームページなどで公開していまして、その中には見つけたらすぐに行政に通報する電話番号も載せています。

もちろん港湾などの業者さんの段階で食い止められれば一番なんですが、外来生物はその防衛線を超えてくることもありますので、その時にこうした庶民の協力を得やすい仕組みも重要だと思います。