改正組織犯罪処罰法の成立で何が変わるのか。 ニュースアップ
NHKラジオ「NHKマイあさラジオ」7月11日放送
キャスター:共謀罪の構成要件を改めてテロ等準備罪を新設する、改正組織犯罪処罰法が今日施行されました。
この法律でテロを防ぐことはできるのか。
そして私たちにはどのような影響があるのか。
清永解説委員に聞きます。
この法律がスタートして、私たちにはどんな影響があると考えますか。
清永:おそらく最初は、暴力団や振り込め詐欺のグループなどをターゲットに捜査が進められると見られます。
このため、私たちにすぐ直接な影響はないと思います。
特に振り込め詐欺などいわゆる特殊詐欺は、年間の被害額が400億円を超えています。
また、グループは組織化が進んでいます。
法律は、組織的犯罪集団が犯行に使う部屋を借りるなど、準備行為を行った時点で処罰できますから、犯行の前に逮捕できれば被害を防ぐことにもつながります。
また暴力団に対しても、従来よりも早い段階で処罰が可能になることが期待されています。
キャスター:テロ等準備罪とありますよね。
テロ対策が主な目的ではないんですか。
清永:テロ対策になるかどうかという議論は、ずっと続いたまま今日を迎えました。
先月、公安調査庁がある統計をまとめています。
それは、去年とおととし欧米で起きたテロを分析したものなんですが、34件中25件は単独もしくは少数による一匹狼型と呼ばれる犯行でした。
単独犯だと、このテロ等準備罪は処罰する対象にはなりません。
もちろんこの法律でテロ防止に役立つケースもあるとは思いますが、世界的な傾向を見ても、法律ができたからテロは防ぐことができるというわけではないことが分かると思います。
不審者の出入国を厳格化するなど、現在の取り組みも充実させていくことが必要だと思います。
キャスター:国会でも議論されましたが、私たち市民が本当に処罰される心配はないんですか。
清永:法務省は全国の警察に先月、適切な運用を求める通達を出しています。
こういうこともあるので、捜査機関がいきなり権限を濫用するということは考えにくいと思います。
ただ、知り合いが組織的犯罪集団の一員とみなされた場合、一般市民も処罰されないとしても、捜査の対象になることはあると思います。
従来も行われてきた内偵捜査が、法律によってさらに助長される恐れは指摘されています。
もうひとつ懸念されることがあります。
この準備行為というのは、日常的な行動と区別がつきません。
犯行の計画を知らない人が頼まれて、たとえば預金を下ろすということが、資金を準備するとした準備行為とみなされて、捜査に巻き込まれるといった危険性もぬぐえません。
キャスター:乱用を防ぐためには大切なことは何でしょうか。
清永:二つあると思います。
ひとつは任意捜査とは別に、捜索や逮捕といったより人権に影響を及ぼす場合は、裁判所の令状が必要になります。
これは裁判官に事前にチェックしてもらう令状主義です。
この令状主義が捜査のチェック機能を果たすことができているのかどうか、これを強く求めていきたいと思います。
ただ、今どれだけ裁判所が人権侵害の歯止めになっているかは、令状の却下率から見て疑問も感じます。
もうひとつは、捜査機関が自ら市民の不安を払拭できるかどうかです。
テロを防ぐというのは大切ですが、その過程で恣意的に運用され市民の反発を招いてしまえば、安全な社会をつくることはできません。
適切な運用求めていきたいと思います。
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