ICBMは「独立記念日への贈り物」一線超えた北朝鮮にアメリカの対応は?
TBSラジオ「荒川強啓デイ・キャッチ」7月5日放送
解説:上智大学教授 前嶋和弘
北朝鮮が4日に発射した弾道ミサイルは、これまでで最も高い2500キロを超える高度に達し、男鹿半島からおよそ300キロの日本の排他的経済水域内の日本海上に落下したと推定されています。
この弾道ミサイルについて、アメリカのティラーソン国務長官は、ICBM大陸間弾道ミサイルだったことを認めました。
また、ティラーソン氏は、トランプ政権が北朝鮮を核保有国として認める考えがないことを強調し、北朝鮮の核・ミサイル開発につながる資金源を断つために、関係国に制裁強化を求めました。
一方、北朝鮮の労働新聞は、ICBMの発射実験について、金正恩朝鮮労働党委員長が、「独立記念日を迎えたアメリカへの贈り物だ。不快だろうが今後も大小の贈り物を頻繁に贈ろう」と述べたと報じています。
金正恩氏は、「アメリカが朝鮮敵視政策を根源的に改めない限り、いかなる場合も核とICBMを交渉テーブルに乗せない」と宣言しました。
荒川:ICBMを独立記念日への贈り物としてアメリカを挑発する金正恩氏、今後アメリカはどのような対応をしていくのでしょうか。
アメリカ政治に詳しい上智大学教授の前島和弘さんに伺います。
今回のICBM発射実験なんですけど、北朝鮮の言動は非常に挑発的です。
前嶋先生、このタイミングでの北朝鮮の動きをどのようにご覧になっていますか。
前嶋:北朝鮮としては、ずっとアメリカとのやりとりをしてきましたよね。
そして、核開発、ミサイル開発を続けていて、この段階ってどの段階かと言うと、アメリカ独立記念日ということもあるんですけど、すぐにG20があるんです。
G20で、アメリカが他の国と話し合えるタイミングの直前に撃って、「北朝鮮を核保有国と認めろよ」というメッセージだと思うんです。
アメリカとしては、ちょうどG20があって、いろんな国と話さざるを得ない。
だから、絶妙のタイミングと言えるかもしれません。
その他に、アメリカは中国との関係にも軋みが見えてきています。
だから何とも言えない部分もありますね。
荒川:トランプ政権にとって、このICBMに発射は、軍事行動に踏み切る基準となるレッドラインのひとつと見られていた訳ですが、それを超えて来たと、そういう判断をするんでしょうか。
前嶋:これは微妙なところです。
アメリカは、レッドラインという言葉を公式には使っていないんですよね。
ただ、ICBMの発射もしくは核実験そのものがおそらくレッドラインであろうと、いろんな国が考えていて、アメリカの方でもそう考えていたと思います。
ですので、レッドラインというか重大な局面ですよね。
重大な局面とはどういうことかというと、アメリカにとって何か対応をしないと、次の対応をしないといけないという、新しいフェーズに来た、そんな感じだと思うんですよね。
荒川:新しいフェーズ、それが軍事行動につながるのかどうか非常に気になるところですが。
前嶋:アメリカとしての選択肢は2つしかないと思うんですね。
ひとつは軍事行動。
これは、なかなか日本にとっても大変ですし、ソウルも火の海になる可能性があります。
北朝鮮の報復で。
これは、できたら避けてほしい。
もうひとつは外交的な解決なんですが、アメリカとしては徹底的に北朝鮮の核を放棄させるところまで行きたいんですね。
この2つのジレンマですよね。
外交的に話がつくとしても、なかなか落とし所が難しい、こういう状況だと思います。
荒川:アメリカのティラーソン国務長官も、国連制裁決議の完全な履行を改めて呼びかけている訳ですけど、その中には北朝鮮の労働者を雇用していたり、あるいは北朝鮮に経済的・軍事的な利益を提供していたり、そういうところはとにかくやめてくれというようなメッセージが入っているかと思うんですが、これはこの通りに行動してくれるもんですかね。
前嶋:なかなか難しいところです。
これは、具体的に中国なんですよね。
中国で北朝鮮と貿易をやっているようなところは、北朝鮮と接していて経済的に貧しいところなんですよね。
中国としては、近く党大会があるので、貧しいところからの反発は押さえたい、なるべくそういうことがないようにしたい、そうするとなかなか中国の国としての制裁が進んで行かないということになると思うんです。
要するに、北朝鮮の話で、中国国内で貿易をやめさせようとすると、北朝鮮との貿易をやめさせようとすると、国内からのバッシングがあるというのが中国の流れだと思うんです。
荒川:中国にとって見ると、国内事情にもつながる訳ですね。
前嶋:まさにそうだと思うんです。
荒川:どういう手があるとお考えですか。
前嶋:なかなか難しいです。
G20が開かれるんですが、我々としては軍事的オプションはないと望んでいるところですが、それも最後まで捨てきれないところですね。
それもG20までに話をまとめておきながら、外交的な解決に向かうんだけど、できる限り軍事的な可能性を残しておくという、2段階でアメリカは進めるんじゃないですかね。
我々としては、何かあっては非常に困る訳なんですけど。
荒川:そうすると、アメリカは直接何かできるかというと、ご指摘の通り、せいぜい2つぐらいしかないと。
そうすると、中国とロシアに、何かお願いしたいというところがあるでしょうか。
前嶋:中国とロシアはちょうど首脳会談をしていて、まず最初に米韓合同の軍事演習をやめてくれと、アメリカにとっては驚くようなかたちなんですよね。
ロシアと中国が組んで、今度は何を言ってるかというと、韓国とアメリカの軍事演習をやめたらいい北朝鮮対策になると。
アメリカにとってみれば「え?」という感じだと思うんですよね。
なんか協力してくれないんだということになってしまう。
そうすると、やっぱりこの瞬間は打つ手がないんですね。
荒川:金正恩氏は、まだまだ贈り物をと挑発してる訳ですけど、なんとかなんないですか。
前嶋:なんとかなってほしいですよね。
G20で、日本を含めて外交的なアイデアがどれだけ出てくるか。
ここですよね。
我々日本にとっても大変大きな会合になります。
安倍さんは、トランプさんとも仲が良くて、プーチンさんとも仲がいいですから、G20というよりもプーチンさんとトランプさんが別件で2人で話すんですけど、この2人の真ん中に立てるのが日本ですので、真ん中に立ちながら最後の落とし所を日本がうまくまとめてくれるようになればいいんですけどね。